――時間・恋・記憶――『未来からのホットライン』
最近僕の中ではハードSFを見たい気分の時はホーガン先生を読めば概ね間違いないという理論が出来上がりつつあって、これも十分それを満たしてくれた。
スコットランドの寒村の古城で暮らすノーベル賞物理学者が開発したのは、60秒過去の自分へ、6文字までのメッセージを送るプログラムだった。孫たちとともに実験を続けるうち、彼らは届いたメッセージを60秒経っても送信しないという選択をしたが、何も起こらなかった。だがメッセージは手元にある。では送信者は誰? ハードSFの巨星が緻密に描き上げた、大胆不敵な時間SF。
という物で、読んでわかったんですが「シュタインズ・ゲート」の元ネタっていうか、かなり近い描き方をしています。
本作では過去へとデータを送信できるゆえに発生したタイムパラドックスを利用して時間と世界についての理論を描き、その中で翻弄される主人公たちを描いてます。
本作の時間概念は、過去にデータを送り過去の行動が変わる事で、そこからの世界は全て変化しそもそも過去にデータを送ったという世界その物が消える(再構成する)という物です。じゃあお前未来から来たメッセージはどこから? という事ですが、それはその消えた世界から来た物、という事になります。
私たちは違う時間に同時に身体を置く事が出来ないので理解できませんが、もし時間を浜辺に打ち寄せる海の波として上から眺める「超越者」の視点に立てれば理解できます。波打ち際に居る人間が沖へと石を投げれば波の形は変わり、浜辺に到達する波の形は変わります。ですが眺め下ろしている超越者から見れば、
①石を投げた時の浜辺の波の形(改変されていない未来)
②石で変化した沖の波の形(変化した過去)
③それが浜辺に到達した時の波の形(変化した未来)
これら3つが同時に存在する事は矛盾しません。常に過去の改変は置き続け、未来は変わり続けている。当然経験が変わるので、記憶から何から全てが再構成され海で遊んでいる私たちは波の変化には気付かない。……でいいのかな。
この「石を投げた→波の形が変わった」事に気付ける主人公を置いたのがシュタゲであり、鳳凰院凶魔の「魔眼」リーディング・シュタイナーでした。
本作の主人公、マードックはその変化に気づきません。何度かこの時間改変を行いますが、全て忘れます。都合が良いと言っていうか、そのおかげで恋人とイチャイチャしてるし。でも、その反対の悲しい事も経験します。そしてそのすべてを忘れてしまい、記憶しているのは読者だけというのが何とも悲しい。けど面白い。
ここに美少女ゲームのセーブとロードで起きる「あれだけイチャイチャしているのに覚えているのはプレイヤーだけ」と同じ物がありました。
ラストで描かれる救いが読後感をとても良くしてくれました。やっぱりハードSF作家は出だしと同じくらいラストがクールです。面白かった。
そしてシュタゲはやっぱり面白かったんだよな(これが言いたかった)